いやー…感慨深くおります…しみじみ…
大変長い事かかって、13冊の児童文学を読み終えました。
「世にも不幸なできごと」シリーズです。
そもそも、どうしてこの本に出会ったかというと、3巻分を実写化した映画がありました。
この映画が素晴らしくて素晴らしくて…!!
そもそも、私はとんち話みたいのが好きなんですよ、知恵でピンチを切り抜けるような話っていうんですか、グリム童話でもケルト民話でもいいんですけど、三人兄弟の上二人が負けちゃった魔女とかゴーレムとかを、一番下の弟妹が機転をきかせて勝つ話とか。地獄の閻魔さまをとんちで言い負かせてやり込めるとか。特に集団の中で弱い存在、子供だったり、ちょっと疎まれてたりするキャラクターだったりが、集団の中で唯一聡明に世界を見ていたりするとたまらんです。
オタクがオタクの知恵で勝つ話とかもそういう意味で最高です。
オタクがオタクの知恵で勝つ最高峰の話といえばこれ
スタートレック?風?のギャラクシークエストというテレビドラマを教典としている宇宙人に、自分たちの星の危機を救ってほしいと宇宙へ拉致された俳優たちのドタバタコメディで、俳優たちを助けるのはそのドラマのオタクたち!宇宙船内部の構造とかをやってる俳優よりスラスラ答えるところがオタクとして胸がすく!!www
集団の中の弱者だけが真実を見抜く話で大好きなのはこれ
ヒックはバイキングの仲間たちの中で一人だけひょろりと細くて、お父さんはしかも一番強いリーダー。いつも後ろ指を指されながらも、自分は工夫して道具を作ったりしてその精度を高めていたら、誰もまだ捕まえたことがない強いドラゴンを射止めてしまう…という話ですよ。
もう何度かブログで言ってるかもしれない最高に熱い映画です!!未見の方は是非!!
今更ですが、弱者だけが偉業を成し遂げる術を持つ映画といえばこれ!
私が指輪のどこが一番好きかって、ここなんですよ!ホビット族という極めて素朴で陽気で悪意を持たない種族の、単なる若者であるフロドだけが、世界を征服する力を持つ指輪を所持し、火山に捨てる事が出来るという部分が最高なんです!!他の話なら、選ばれし勇者が特別の力を持ってその指輪を使って勝つのが普通じゃないですか。RPGの祖と言われているのに、弱い者が権力を捨てに行く話だ、というのがぐっときて…!!いわば巻き込まれたような形でこの偉業を成し遂げるフロドが、指輪を所持して何度か指を入れてしまった代償を払うことになるラストシーン、泣いたなあ…!これ語り出すと長いのですがwww
そんな、「圧倒的に不幸な立場の子供たち3人が、大人をやりこめ、ピンチを切り抜ける話」であるのがこの「レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語」という映画であり、原作の「世にも不幸なできごと」全13巻なのです…が。
映画だけで抱いた印象とは、まるで違うところに着地する最終巻に、ぼーっと思いを馳せている数日です…。そんな話を、長々と書いてみようかと思います。ネタバレは基本気にしないでいきます。
折り畳んでおります、お暇でしたらぜひ。
拍手ありがとうございます!!
絶対見るなよ、って言われて見ないで済ませられる人はあまりいないわけです。しかも子供だったら特に。語り手は作者のレモニー・スニケットですが、彼が追っ手から逃げながら、三姉弟妹の足跡をたどっていく風に仕上げられていて、最終的には、レモニー・スニケットは劇中の登場人物となるわけです(実は、ダニエル・ハンドラーという小説家・脚本家が作者で、レモニー・スニケットはペンネーム)。レモニー・スニケットは、とにかく悲惨なことばかりに出会う三姉弟妹の物語を鬱々と語り、毎回ピンチを華麗に切り抜ける部分はさらりと描写していて、それがこの本の面白さになっています。爽快感はあるけれど、とにかくずっとためいきまじり。児童文学でこんなことでいいのかな?と一瞬思ったんですが、子供の時って、怖かったり、暗かったり、ぞっとしたり、悪い奴が強かったり、悪がはびこったりするものって好きじゃないですか。大人が読ませたい本は明るくて元気いっぱいで美味しいものが出て来たりする、ひなたの匂いのしそうな本かもしれないけど、小公子だってああ無情だってハイジだってガンバの冒険だって、じめっとしてて暴力に強いられて犯罪の匂いがしたり病んでたりどうしても勝てない相手がいたりするじゃないですか。ああいうのがいいんですよ、子供の頃って。
なので、予防線としてずっと「この物語は不愉快に終わりますよ」と言われているので、12巻までで壮大に張られた謎や伏線の回収が13巻できっちり済んで大団円といくかといわれると、そんなにうまくはいかないだろうなあと思っていたのですが、想像以上にまったく回収されなくて驚きました。両親が誰に殺されたのかすらすっきりしないし、物語の途中で三姉弟妹が出会う(どうやら両親も所属していたと思われる)V・F・Dという謎の組織が、敵か味方かもよくわかりません。最後には、オラフ伯爵すら敵ではなかったのかもしれないという流れに。
最後にまったくすっきりと子供たちを「成就」させない終わりは、子供たちの道中の葛藤こそ物語の核であり、謎や、わかりやすいキーワードなどは本題ではなかったということなのでしょう。
では、子供たちは何を葛藤するのか。8巻あたりから如実になってくるのですが、「自分たちのしていることは悪いことではないのか?」ということです。
1巻からしばらくは、子供たちはただ可哀想な被害者で、オラフというわかりやすい悪党がいて、それを全力でやり込めることに何の迷いもないわけです。それが、途中から「自分たちが良い事だと思ってやった事が盗む事だったり犯罪だったりするのではないか?」と悩むようになっていきます。例えば自分たちのことを書かれたファイルを読むために、ある書庫へ忍び込む必要があり、鍵を偽造して悪党ではない書庫の番のおじいさんを騙す、ということが、自分たちの中では必須で正しい行いであっても、第三者から見れば悪党の所行なのではないか?必ず正しいと思っていたものの裏側に、悪い行いが潜んでいるのではないか?子供たちはそれを悩み始めます。
弟クラウスの初恋相手は、唯一の血縁者である兄を選んで悪党たちと一緒に旅立ってしまったり、人質をタテにとって取引するのは正しいことなのかと悩んだり、割り切れない時にも選択しなければいけない瞬間が確かにやってくるわけです。この、割り切れない葛藤こそ、人生には多く存在することだし、レモニー・スニケットが子供へ伝えたいことなのではないかと思うのです。
サニーという一番下の赤ちゃん(途中から2才くらいになり会話がきちんとしてくるんですが)は、作中、的を射た単語を発して会話することがあります。
---(引用)
「でもオラフがスニケット・ファイルをもっているなら、その安全な場所がどこにあるのか、どうやってつきとめるつもり?」ヴァイオレットはサニーにたずねた。
「またはり」ー「ここにあたしがのこれば、スパイ活動してつきとめられるよ」
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またはり、は世紀の女スパイと呼ばれた人物の名前で、その一言で、スパイ活動をするよという意味を表す、といった具合です。
13巻で、オラフ伯爵と子供たちが会話するシーンがあります。
---(引用)
「果物なんぞいらん。おれさまがほしいのは、おまえらの両親がのこした財産だ」うなるようにいうと、オラフは胸をおさえたままおきあがろうとした。
「財産がここにあるわけないでしょう。このままじゃ、わたしたちのだれも、そのお金を見ないままになっちゃうかもしれないわ」
「たとえここにあったとしても、このままじゃ、お金をつかう楽しみはあじわえないよ」クラウスがいった。
「まくがふぃん」サニーがいったのはこんな意味だった。「この場所にいたら、あんたの計画なんかなんの意味もないんだから」
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マクガフィンというのは、ミステリー映画の巨匠、アルフレッド・ヒッチコックが提唱したと言われる物語の構成要素の用語で、こんな風に説明したそうです。
「私たちがスタジオで 『マクガフィン』と呼ぶものがある。それはどんな物語にも現れる機械的な要素だ。それは泥棒ものではたいていネックレスで、スパイものではたいてい書類だ。」
(Wikipediaより引用)
要は、物語の登場人物にとっては、重大で、大事で、物語の推進力になるような重要なアイテムや動機は、全体的な物語の構成という角度から見れば何でも良くて、入れ替え可能なものだという話です。
ファイアーエムブレムで例えると、っていうのもなんですが、オーブ集めとか、エムブレムってもの自体、各地に探しに行ったり敵と対峙する要素としてのマクガフィンだといえるわけです。
サニーのセリフがいつものように的を射ているとすれば、私が映画を見て、ジム・キャリー演じるオラフ伯爵が、ずっと財産目当てにひどいことを続けるのを、憎たらしく憤慨していた事自体、マクガフィンだったのであって、子供たちが協力して切り抜ける過程や、大人が多くを語らずに子供は分からないことが多いまま受け入れざるを得なかったり、善悪のはっきりしないことを割り切れないまま悩み続けることなどが、本当にこの物語が伝えたいことなんだ、ということなのではないでしょうか。
賛否のある終わり方なのは間違いないのですが、最後に三姉弟妹ともう一人が旅立っていく前向きな終わりはとても希望のあって、私は嫌いじゃないです。
子供たちにはこれからも不幸が襲いかかるかもしれないけれど、あの子たちならきっと大丈夫だろうと思わされるし、子供時代に解けなかった数々の謎を、子供たちはこれから自身の手で解き明かしていくんだろうと思えるのです。
しかし、ずっとずっと暗い展開で最後まで読者を煙に巻き続けたレモニー・スニケットの手法には脱帽です。あーあ、日本でももっとみんなが簡単に読めるようになればいいのになあ!!!
うちの甥っ子が大きくなったらぜひ読ませて、人生が甘いことばかりじゃないってことをわからせてやりたいものです。